関東化学工業株式会社が新たに展開する粉末漂白剤ブランド「アンルヴェ」。35年にわたり培った粉体技術を活かし、受託製造中心の事業からオリジナルブランドの展開へと踏み出した同社の挑戦について、常務取締役の志手直哉氏にお話を伺いました。
アイデア開発のトップを走る大手製薬メーカーからのアイデンティティ
志手さんは2023年10月に関東化学工業に入社。それまでは小林製薬で約10年にわたり営業とマーケティングに携わってきました。マーケティングのブランドマネージャーとして、また日用品事業部にて日中連携マーケティング、事業戦略スタッフとして幅広い経験を積んできました。
「小林製薬では、お客様に一目で商品の特徴が伝わる『わかりやすさ』を徹底的に追求していました。例えば商品名を見ただけで、どういった商品なのかがすぐにわかるような工夫がなされています。これは、お客様に寄り添った商品作りの表れだと考えています」と志手さんは語ります。
関東化学工業は主に受託製造を手がける企業でしたが、「せっかく粉体に関する技術力があるのだから、自社ブランドも展開していきたい」という思いが経営陣にありました。しかし、マーケティングやリテール向けの販売ノウハウを持つ人材がいなかったことが課題でした。
「そこで、私の小林製薬での経験を活かせないかと声をかけていただきました。商品開発だけではなく、商流も含め0から1を作るために何が必要なのか、その道筋を示せる人材として期待されたのだと思います」
市場分析と製品開発のプロセス
粉末酸素系漂白剤市場は、特定ブランドが圧倒的なシェアを占める状況が続いていました。しかし、志手さんは既存製品には改善の余地があると考えました。
「従来の粉末酸素系漂白剤でも汚れは落ちますが、落ちきれない汚れや臭いが残ることがあります。これをクリーニングに出すことで更に高いお金を追加で払わなければならないのか。我々の技術を使えば、より高い効果が得られるのではないか。そう考えて開発をスタートしました」
製品開発にあたっては、社内でアンケートを実施。約300人の従業員から意見を集め、気になる点については個別にインタビューを行いました。大規模な定量調査は予算的な制約から難しかったものの、従業員の声を丁寧に拾い上げることで、具体的なニーズが見えてきました。
「例えば、日本人がよく食べる炭水化物による汚れに特化した成分や酵素の配合など、他社製品には見られない特徴を盛り込むことができました」
組織の変革とチャレンジ
新商品開発という未経験の取り組みに対し、社内の反応は期待と不安が入り混じったものでした。
「従業員の方々は新しいことへのわくわく感と同時に、本当に実現できるのかという不安も抱えていました。しかし、実際に商品ができあがり、試験データも揃っていく中で、自分たちで何かを作り上げる喜びを感じ始めていきました」と志手さんは振り返ります。
この過程は、単なる商品開発以上の意味を持っていました。「タスクをこなすだけでなく、楽しみながら仕事をしてほしいという経営層の思いもあり、この新商品開発は従業員のモチベーション向上にも繋がったと感じています」
差別化戦略とブランディング
「アンルヴェ」という商品名には二つの意味が込められています。フランス語で「取り除く」という意味と、「雪を溶かす」という意味です。
「当社は元々、航空機用の防除雪氷液から事業を始めました。その原点と、汚れを『取り除く』という製品の機能を掛け合わせた命名です」と志手さんは説明します。
パッケージデザインにも独自の視点が取り入れられました。既存商品の多くが青や緑を基調としているのに対し、「アンルヴェ」は黒と白のモノトーンを採用。
「近年のマンションなどではキッチンもスタイリッシュになっています。従来の漂白剤は置いた瞬間に生活感が出てしまう。そこで、どんな空間にも馴染むデザインを目指しました。また、パッケージには必要最小限の情報のみを記載し、シンプルさを追求しました」
プロモーション戦略と動画制作
製品の特長を効果的に伝えるため、プロモーション動画の制作が企画されました。制作を担当したHonmono協会のツチヤさんは、既存の漂白剤広告とは一線を画すアプローチを提案しました。
「最初は科学的な効果説明を中心とした案もありましたが、SNS時代では普通の動画はスキップされてしまう。視聴者の興味を引くエンターテイメント性が必要だと考えました」とツチヤさん。
特に注目したのは、製品の「高発泡過炭酸ソーダ」という特長でした。「発泡の様子は視覚的にインパクトがあり、効果の高さを直感的に伝えられます。この特徴を活かさない手はないと思いました」と志手さん。
30秒の動画は、「35年間粉体に特化してきた技術の集大成」というメッセージから始まり、ユーモアを交えながらも製品の特長をしっかりと訴求する内容に仕上がりました。
完成したプロモーション映像はこちら
「OEM事業中心の会社なので、一般消費者の方々にはなじみがありません。そこで、35年の実績をアピールすることで信頼性を担保する必要がありました」と志手さんは説明します。
流通戦略とターゲティング
粉末漂白剤市場は、液体タイプへの移行が進んでいます。しかし、志手さんはあえて粉末にこだわった理由があります。
「粉末タイプには根強いファンがいます。市場が液体化に向かう中でも、粉末でなければダメだというお客様がいる。そういった方々のニーズに応えつつ、粉末漂白剤の新たな可能性を示していきたいと考えています」
ターゲットは30-40代の主婦層を中心としながらも、家事をする全ての人々を視野に入れています。「似たような商品が溢れる中で選んでいただくためには、明確な差別化ポイントが必要です。高発泡過炭酸ソーダという特徴的な成分と、その効果をしっかりと伝えていきたい」
プロモーション動画の反響
完成した動画は社内でも好評でした。「冒頭部分で笑いが起きたり、発泡の様子に驚きの声が上がったり。30秒の中で、伝えるべき情報と興味を引く要素のバランスが取れた内容になったと思います」と志手さんは評価します。
ツチヤさんも「お客様の意図をしっかりと理解した上で、新しい提案ができた。特に、動画の構成については様々な案を出し合い、最終的に最適な形に落ち着くことができました」と手応えを語ります。
今後の展望
「まずは多くのお客様に知っていただくことが重要です。一度使っていただければ、その効果は必ず実感いただけると確信しています」と志手さん。
「アンルヴェ」ブランドとしては、今後洗濯槽クリーナーなど製品ラインの拡充も視野に入れているといいます。
「他では落とせない汚れや臭いに対する解決策として、『アンルヴェ』ブランドを確立していきたい。価格競争ではなく、本質的な価値で選んでいただける商品を目指しています」
関東化学工業の挑戦は始まったばかりです。製造受託という基盤事業で培った技術力と、マーケティングのノウハウを融合させた新たなブランド展開。「アンルヴェ」の今後の展開が注目されます。
文・撮影:師田賢人
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